『マインドフル・ワーク』(NHK出版)
デイヴィッド・ゲレス
著者は『フィナンシャルタイムズ』に5年間勤務したのち、
2013年に『ニューヨークタイムズ』の記者として働く、
ビジネス記者としてのキャリアが長いようですが、
大学時代からインドに留学して瞑想を学んだ人です。
本書は、
昨今アメリカで大流行しているマインドフルネスを取材し、
みずから体験したことや、
有名企業が取り入れている実態などをレポートしています。
■そもそもマインドフルネスとは?
スティーブ・ジョブズが、
「瞑想するCEO」として有名になり、
シリコンヴァレーには、
ジョブズの習慣を引き継いで、
瞑想するエンジニアが多いそうです。
フォードやGoogle、
Facebook、インテル、リーボックなど、
マインドフルネスを社員教育プログラムとして取り入れて、
生産性を向上させています。
世界の名だたる有名企業が採用したことで、
注目をあびている「マインドフルネス」ですが、
日本では、この言葉だけが独り歩きしています。
では、そもそもマインドフルネスとはいったい何でしょうか?
著者は、こう語っています。
「マインドフルネスを一言でいうと、
私たちの頭のなかに生じる、
さまざまな考えを、
それに心を動かされることなく、
観察する力のことだ。
自分の感覚を、苦痛なものでさえも、
心を動かされることなく
感じることのできる能力である」
「研究によれば、
マインドフルネスは、
私たちの免疫系の能力を高め、
集中力を向上させ、
脳神経の結びつきを再構成する。
ジムでバーベルを挙げれば筋肉がつくように、
マインドフルネスを実践すれば、
私たちの心は強くなる。
そして、
マインドルネスを実現するための実証済の方法が瞑想だ」
瞑想といえば、
仏教やアーユルベーダ、ヒンズー教など、
宗教と切っても切れない関係にあります。
マインドフルネスは、その瞑想を、
宗教と切り離して、
科学的な手法を使って、
その効果を実証したものと言えます。
マインドフルネスを世に広めた、
マサチューセッツ大学医学大学院の、
カバット・ジン教授は、マインドフルネスをこう定義しています。
「特定のやり方で、意図的に、
この瞬間に何ら判断を加えることなく、
注意を向けること」
マインドフルネスと瞑想は、
日本では同義語のようになっています。
ですから、瞑想から宗教色を抜いて、
科学的に効果が証明されたものが「マインドフルネス」だと
解釈しても、いいのではないでしょうか。
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■マインドフルネスにはどんな効果があるのか?
本書には、さまざまな研究が紹介されていて、
マインドフルネスには、どんな効果があるのかが明記されています。
そして、なぜ、そのような効果があるのか、
神経科学の分野の研究も紹介されていますので、
難しい科学的なエビデンスを必要とする人は、
ぜひ、本書を紐解いてみてください。
カバット・ジン教授がマインドフルネスを世に広めるために、
着目したのが、
「ストレス軽減」です。
ビジネスの現場はストレスフルな毎日ですから、
そこでマインドフルネスのプログラムを取り入れようとしました。
ストレスフルな日々を送っていると、
鬱になりやすく、
免疫力も低下します。
ある研究では、
マインドフルな職場では、
心のしなやかな回復力が高まったと報告されています。
「集中力が高まる」
という効果も期待できます。
実際、マイケル・ジョーダンをはじめとする
トップアスリートたちが、瞑想を実践し、
試合でのパフォーマンスをアップさせている事例が本書に紹介されていました。
「思いやりの心」
瞑想を実践していると、
思いやりの心が芽生えてくるそうです。
他者への共感を養うだけでなく、
自己への慈しみも引き出すことができます。
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■ストレスは人間の命さえ奪う
ストレスに関して、本書にこんな記述がありました。
ストレスは爬虫類、トカゲの脳による
原始的な自動反応です。
ストレスはあなたの身体、
あるいは、自我に対する現実の、
あるいは、想像上の恐怖を知覚することです。
たとえば、サイに追われるような状況です。
あるいは、上司が自分に対して腹を立てているとか、
自分の伴侶が今まで絶対やらなかったことを
したというようなことかもしれません。
これらは、
すべて頭のなかで起こる反応なのです。
原因が何であれ、
あなたに起こる肉体反応は同じです。
まず、
ストレスホルモンのコルチゾールが上昇します。
アドレナリンも上昇し、
身体に一連の反応を引き起こします。
最初に、
お腹の脂肪が増加し、
悪玉コレステロールが増え、善玉が減ります。
炎症が悪化し、
テストステロンは減り、
不妊になる確率が上がります。
女性は口ひげが濃くなり、
髪の毛が抜け落ちます。
筋肉も落ち、
不眠症になり、
動悸が激しくなり、めまいがしてきます。
こうしたストレスに対する最大の武器は、
思考を切り替える能力です。
そこでマインドフルネスの出番となるわけです。
■マインドフルネス瞑想のやり方
基本的なマインドフルネス瞑想のやり方を紹介しましょう。
(1)自分にとって楽な姿勢を見つける。
まっすぐな姿勢で背筋を伸ばして座るのが理想的。
椅子に座っても、クッションでもいい。
しかし、背骨はまっすぐでなければいけない。
(2)目を閉じて、深い呼吸を数回し、
姿勢を安定させる。
身体の重さを感じてみよう。
顎や首、肩、腕、そして膝の力を抜きリラックスさせる。
特別な意識をせず、息を自然に出入りさせよう。
(3)頭からつま先まで、自分の身体の感覚に注意を向けてみる。
温かさ、冷たさ、心地よさ、あるいは、不快な感覚もあるかもしれない。
姿勢を変えないようにして、
しばらくの間、こうした感覚に気づいてみよう。
(4)準備ができたら、1つの感覚、
たとえば、呼吸が鼻孔を出たり、入ったりする感覚などを選んで、
すべての注意を集中させてみよう。
他の感覚をすべて意識の外に追いやり、
この感覚だけに集中してみよう。
(5)呼吸に集中しながら心が落ち着いてきたら、
呼吸というものが
いかに複雑な行為かということに気づいてみよう。
自分の肺が膨らみ、次に収縮するため、胴も上下する。
鼻を通して空気が流入し、鼻孔をくすぐり、
出入りするたびに音をたてる。
(6)唇と鼻の間の一か所、唇の上の部分を選んで、
そのわずかな皮膚部分に呼吸がどのように感じられるかに注意を向ける。
感覚を意識し続け、注意をその場所に向ける。
(7)何回か呼吸したら、あるいは一呼吸だけでも、
あなたの注意力はさまよい始める。
身体の他の感覚に気づいたり、周囲で起こっていることが気になったりする。
あるいは雑念に囚われ、
過去や未来について夢想したり、自分や他者に対して判断を下し始めるかもしれない。
(8)この場合、自分が考えていることや、
自分の気をそらしているものに気づこう。
それを認識し、手放し、穏やかに呼吸に注意を戻してみよう。
吸い込む息、吐く息に集中しよう。
(9)数回呼吸すると、心は避けようもなく再びさまよい始める。
その場合、再び同じことを繰り返す。
気を逸らしている原因に気づき、
何度も、何度も、注意力へのコントロールを回復する。
これが、マインドフルネスの実習の鍵であり、
やがて莫大な見返りがもたらされる。
(10)慣れてきたら、目を開けるのを10分後、30分後、
あるいは、1時間後と延ばしていこう。
あなたの瞑想トレーニングタイムはこれで終わりだ。
でも、マインドフルな気づきは、1日中持続させることができる。
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