SF小説の読み方



この2冊のSF小説を一気に読みました。


『火星年代記』(レイ・ブラッドベリ)


『火星のプリンセス』エドガー・ライスバローズ


両者は同じ火星を舞台にしながら、

まったくちがうテイストの小説に仕上がっています。


作家のアイデンティティが違いますから当然といえば当然ですが、

比較しながら読んでいくといい勉強になるんです。



ブラッドベリが静なら

ライスバローズは動。



ブ)は、シチュエーションにこだわり、

ラ)は、ストーリー展開にこだわっています。



ブ)は、火星を舞台にして人間を描いたのに対して、

ラ)は、火星人と地球人の異文化交流を描いています。



ブ)が、純文学ならば、

ラ)は、まぎれもなくエンターテイメントです。



ブ)の『火星年代記』は1950年に出版されました。

「火星をテーマに毎日ぽつりぽつりと書いていた短編が、

ある朝、ザクロのように弾けて夢中になった」

とブラッドベリは言っています。

その後、ニューヨークに出て編集者から、

「この火星にまつわる短編集を『火星年代記』としてまとめたらどうですか」

と提案を受けます。

そのときに受け取った小切手を手にして故郷に帰ったブラッドベリは、

そのお金で2年間不払いだった家賃を払い、

無事に長女が生まれたのだというのです。


売れない短編作家だったブラッドベリーが、

この作品で名声を得るのです。



『火星年代記』のなかの短編で、

おもしろいエピソードをいくつか紹介しましょう。


1)地球からはるばる火星にやってきた探検隊だが、火星人たちは、

歓迎どころか、

驚きさえしない、という奇妙なお話。


2)火星の空気が薄いことを生涯のテーマとし、

大地に木を植えるという男の話。



3)火星でのんびりと暮らす人々のもとへ、

ラジオから驚きのニュースが飛び込んできます。

地球で戦争が起きたという。




ラ)の『火星のプリンセス』は1917年に出版されていますから、

ブラッドベリの小説よりも、

はるか昔のSF古典です。


アメリカ南軍の大尉ジョン・カーターは火星へ幽体離脱し瞬間移動します。


ジョンは凶暴な火星の緑の部族にとらえられます。

そこで同じ捕虜となった赤の部族のプリンセスに恋をしてしまうのです。


ジョンの勇気と知恵によって、

プリンセスと救出する冒険活劇となっています。


SFというよりもヒロイック・ファンタジーの要素が強い小説です。



現代のSF作家が書いたら、

もっと科学的なうんちくを加えるのでしょうが、


いまなお風雪に耐えて生き残っている古典作品というのは、


普遍的な魅力を持っています。



小説を書く人たちは、

この普遍的なものをつかむことが肝心なのではないでしょうか?



(高橋フミアキ)