『白川静さんに学ぶ漢字は怖い』
(小山 鉄郎)
漢字は恐ろしい。
漢字の成り立ちも、語源も、
それらを組み合わせて出来た言葉も、
全てが恐ろしい。
本書は、そのコンセプトで
作られています。
たとえば、『ご機嫌よう』という言葉が
あります。
今でこそ挨拶として肯定的な意味で使用されていますが、
元々は『機織りは卑しい職業だから嫌っていましょうね』
という意味で使われていたと言われています。
何故か。
それは漢字の意味を知ればわかります。
この『機』は機織りの事で『嫌』はそのまま嫌うという意味です。
そして昔は『機は正に婢に問うべし(機織りの事は卑しい身分に聞け)』と言われていました。
この言葉が示す通り、機織りとは卑しい身分の職業とされていたのです。
だから自分が『卑しい身分』にならないように『機織り』などやらず、『機織り』をするような存在を嫌いましょうね、
とお互い言い合っていたと、いう訳です。
そんな風に言葉に込められた意味は計り知れないものがあります。
ましてや古代と言えば『言霊信仰』があった程です。
どれだけの想いと想像力を持って組み上げて来たのだろう、
と考えさせられます。
漢字の成り立ちから見てみると、例えば『ネ(しめすへん)』は、
祭壇の生贄の様子から。
『示』は祭壇の生贄が血を滴らせている様子から成り立った
漢字と言われているそうです。
勿論、そんな怖い理由から作られた漢字ばかりではなく、
『木』のように見たままから作られた漢字もあります。
本書の中で語られているのは漢字の成り立ちだけですが、
文章での説明だけでなく、
古代文字の形やイラストを組み合わせて漢字の体系毎に
まとめられていて、わかりやすくなっています。
本書は後漢の許慎(きょしん)という儒学者かつ文学学者が
紀元100年ごろに書いた漢字字書『説文解字』を
底本としてまとめているそうです。
古代日本人は、この底本も読んだのだろうか。
目にした漢字に対してどんな解釈をしたのか。
この書を読んでそこが知りたくなりました。
何も考えずただ読むだけでも楽しいですが、
どうしてこんな形になったのか、
どうしてこんな意味なのか、そんな事を知った上で『言葉を使え』ば、
知らないで使うより遥かに心に響くのではないだろうか、
と考えさせられた一冊です。
(文・浅見キョウコ)