火花

『火花』 又吉直樹


お笑い芸人が芥川賞を受賞したということで、

話題が沸騰し、


144万部というベストセラーになった本です。



芥川賞受賞作の単行本の

それまでの歴代トップは、


村上龍さんの『限りなく透明に近いブルー』(131万部)でした。


今年のトップも、

間違いなく『火花』ではないでしょうか。


出版界に明るい話題をもたらしてくれました。


これだけ出版物を盛り上げてくれた又吉さんの貢献度は大きいと思います。



作品の内容は、


又吉さん自身を彷彿とさせる主人公の徳永が、

4つ先輩の神谷という男に


「弟子にしてください」


と言うところからはじまります。


熱海の花火大会で、

芸人として舞台に立ったときに、

2人は知り合うのです。



神谷は天才肌の芸人で

笑いをとことん追求する男。


徳永はイマイチ垢抜けない中途半端な若手芸人です。



さすが芸人やなぁと思わせるような、

笑える会話が随処に出てきます。


たとえば、

こんな会話。



「もう一度聞くけど、お父さんになって呼ばれてたん?」


「オール・ユー・ニード・イズ・ラブです」


「お前は親父さんをなんて呼んでんの?」


「限界集落」


「お母さん、お前のことなんて呼ぶねん?」


「誰に似たんや」


「お前はお母さんを、なんて呼ぶねん?」


「誰に似たんやろな」


「会話になってもうとるやんけ」


ようやく、神谷さんがほほ笑んで、椅子の背もたれに背中をつけた。



メールのやり取りも面白いんです。



もう一度、アパートまで戻りながら探さなくてはと引き返そうとした時、

神谷さんから


「吉祥寺に住む。どこおる? 夥しい数の桃」


というメールが入った。

僕は、


「高円寺です。今から吉祥寺に向かいます。 泣きわめく金木犀」


と返信し、駅まで急ぎ、ホームへの階段を駆け上がり、

総武線に飛び乗ると、

ようやく気持ちが落ち着いた。



その後、

月日は経過し、


徳永のほうが売れて、

神谷はさっぱり売れず、


揚句に果ては、

借金取りから逃げて行方知れずになってしまうのです。


徳永は、これからビッグになるぞ、

というときに、

相方が結婚を機に芸人を辞めると言い出します。


それで徳永も、

芸人を辞めてサラリーマンになるのです。


サラリーマンになって1年後に、

神谷から電話が入り再会します。


徳永と神谷が出会った熱海へ旅行しようということになり、

楽しい時間を過ごすところで


物語は終わります。


平明で読みやすい文体なので、

又吉さんの作品を軽く論じる人もいるかもしれませんが、


笑いに対する真摯な気持ちや、

芸人に対する愛情には、


底知れぬ重量を感じさせます。


ハッピーエンドともバッドエンドともとれる読後に、


どことなく爽やかな風を吹かせているとこは、

「さすがやな」と思わせる

作家の力量を感じました。



次回作が楽しみです。



(高橋フミアキ)