未来記

未来記


星河 みるく




「100万円の仕事をしませんか?」 男が話しかけてきた。

 「田中さんではありませんか。いったいどうしたのですか」オレは聞いた。

 「いや、ね、1回で100万円稼げる仕事があるんですよ。佐藤さんにどうかな、と思ったから、声をかけたんですよ」

 「100万ですか。大きいですね」私は考え込んだ。


 今の生活を始めて4年くらいか。

大変だが悪くはない、と思い始めていた。


定期的に食事が施され、簡単な作業をしたら少し報酬がもらえ、仲間もいて。

だが、将来のことを考えたら不安にはなっていた。


 「佐藤さん、いつまでも公園の段ボールハウスで生活するわけにもいかないでしょ。将来のことを考えてみませんか?」田中は静かに語る。


 「そうだなぁ。しばらく、考えさせてもらえませんかねぇ」


 「いいですよ。あまり長くは待てませんが、しっかり考えてみてください。あ、このことは他のみんなには内緒ですよ。佐藤さんへの特別なお仕事ですから」田中はそう言って、去って行った。


 田中は支援団体の人のようで、時々日雇いの仕事を紹介してくれる。今回も日雇いか短期の仕事だと思ったのだが。


 数日後、やってきた田中に聞いた。


「100万円は高額ですが、どんな仕事でしょうか」


 田中は、おだやかに笑いながら答えた。


「若い人限定なんですよ。私も詳しくは知らないのですが」


 100万円あれば、アパートを借りて、生活保護を受けながらでも仕事を探せるかな。


 「田中さん。そのお仕事をお受けいたします」


 田中は「ありがとうございます。早速、明日の朝早く、出発しましょう。大事な荷物は全て持って行ってくださいね。では、明日の朝4時に、あの木の下で待っていてくださいね」遠くの大きな木を指さして言った。


 翌日、朝4時。約束通り田中は現れた。


「ついて来てください」


 オレは車に乗せられて、4時間くらい走ったか。どこかの山奥についた。


 「こちらにどうぞ」と招き入れられた部屋に入ると、男が4人いた。


 「お仕事の説明をします。人間の体には腎臓が2つあります。1つになっても大丈夫、十分に生きていけます。だから、・・・」


 つまり、病気の人に腎臓を1つ提供することが、今回の仕事だということだ。

違法だが、どうしても腎臓が欲しい人に売る。

すると金になる。なるほど。


100万だと安いか??


「それと、仕事が終わっても、公園のハウスには戻れません。次の住まいと仕事はこちらで手配いたします」最後に田中はそう言った。


「分かりました。提供しましょう」


オレは、この仕事を受けた。承諾書やら何やら、いろいろな書類にサインした。


「では、10日後くらいに手術です。それまではここでゆったりお過ごしください」


10日後、手術の日が来た。寝て起きたらおしまい、だと、思っていた。


「佐藤さん、眠くなりますよ。5人の方が感謝・・・」それを聞きながら、オレは眠った。


しばらくして


 「あー。よく寝た」と言ったと思ったのだが。



 おぎゃあぁぁぁ おぎゃあぁぁぁ


 「おめでとうございます。あかちゃん誕生ですよ」


 えーーーーーっ。生まれ、変わった・・・。


 おぎゃあぁぁぁ おぎゃあぁぁぁ


(了)



コメント: 3
  • #3

    桑山元 (水曜日, 16 9月 2015 20:44)

    「A」
    死んで終わりと思いきや……無理やりのハッピーエンド(!?)に、ちょっと救われた感じがしました。
    読後感って大事ですね

  • #2

    鈴木康之 (月曜日, 14 9月 2015 22:55)

    ちょっと不思議な感覚がして面白いと思いました。

  • #1

    リンカ (月曜日, 14 9月 2015 15:42)


    主人公が生まれ変わるって??? オチが奇想天外で面白かったです。