小説『時には石川遼のように』


時には石川遼のように

甲田希一

僕の携帯電話が鳴った。ユニクロからだった。

三日前に、スポーツ用の半袖シャツを他店からの取寄せで注文していたことを思い出した。

「取り寄せしている商品の在庫がまだ見つかりませんでして・・・」

 僕は耳を疑った。

 三日前、女の店員は他店にありましたと僕の前で言ってくれたじゃないか。苛立ちがつのる僕をよそに、女の店員は説明を続ける。

「ですから、ご注文のグレーのシャツ、もう少しお待ちしていただけますでしょうか」  僕は思わず大声を出したくなった。

グレー?僕が見たシャツの色はベージュだ。あんたもサイズ違いを手にしていたじゃないか。なぜ、グレーなんて言えるのだ。僕は早口でたたみかけるように問い詰めた。うろたえる店員は、お調べしてかけ直しますと言った。それで電話は終わったものの、もちろん僕の怒りは収まらない。

 あれから二週間。昨日ようやく商品が渡された。

 怒りも流石に収まり、早速新品のシャツを着て黒のクロスバイクで会社へ向かった。会社の入口で、ちょっと気になっている同僚の娘と会った。

 黒くて長い髪がよく似合う素直でクールな娘だ。僕は挨拶がてら自分のシャツを親指でさして言った。

「どう?このスポーツシャツ。襟がついていて石川遼みたいでしょ」  彼女は鼻で笑い、足早に僕を置いて行った。

試着のときに、「石川遼みたいですよ」と褒め称えた店員の笑顔を思い出し、「だ~!!!!」と僕は大声で叫んだ。

(了)