『戦略の教室』(鈴木博毅/ダイヤモンド社)
孫子、ドラッカー、マッキンゼーなど、
古今東西の戦略論をわかりやすく解説してくれる本です。
本書に紹介されているエピソードをいくつか拾ってみたいと思います。
一つ目は、敵の欠点を研究することで新しい戦略が見えて来るというものです。
トヨタ自動車は、
豊田自動織機製作所の「自動車部門」が起源です。
1867年ですから、
徳川慶喜が大政奉還した年のことです。
豊田佐吉はニューヨークへ視察旅行し、
そこでT型フォードで埋め尽くされていた街を目撃します。
その光景に驚いた佐吉は
「これからの時代は自動車だ」
といって、
息子の喜一郎に自動車の夢を託します。
トヨタは、
フォードの生産方式を徹底的に研究し、
その大量生産ラインの欠点を見抜きます。
1)作りすぎの無駄が発生すること
2)人を減らすことが出来ないこと
3)多品種少量生産に向かないこと
この欠点を克服するために、
トヨタでは、
「後工程が引き取った分だけ前工程が生産する」という
ジャスト・イン・タイムの生産ラインにしました。
そして、
多品種低コスト生産を同時に実現することを目標に、
細かい改善をしていきます。
トヨタ生産方式は世界の自動車メーカーが注目するようになりました。
2つめのエピソードは、
車のエアバックのお話。
1984年に自動車のエアバックを、
わずか50ドルで製造できる新技術が開発されました。
当時GMやフォードでは、
最低でも500ドルから600ドルのコストがかかっていたのです。
この新技術を開発したのは、
なんと、
手榴弾の信管起爆装置のメーカーだったのです。
この会社は
最初、
GMへ持ち込みますが、
門前払いを受けます。
GMの技術者は、
手榴弾のメーカーに、
エアバックが作れるはずがないと思ったのです。
柔軟な発想ができなかったことで、
GMは大損害を被ることになります。
この新技術を採用したのは、
英国のジャガーと、
日本のトヨタでした。
他の分野から技術やアイデアを採用するのは、
イノベーションを起こすための基本ですよね。
3つ目のエピソードはゲータレード。
スポーツドリンクのシェア世界一の商品といえば、
「ゲータレード」ですよね。
このスポーツドリンクはアメリカで開発されましたが、
核となるアイデアは、
途上国の知恵にありました。
1960年代はじめに、
南アジア諸国でコレラが流行しました。
そこでは、
コレラの激しい下痢への治療に、
民間療法の飲み物を与えていたのです。
インド伝統のアーユルベーダ医療の治療法でした。
現地に向かった医師が
その飲み物を調査し、
医学情報誌にその有効性を掲載したのです。
その記事が、
フロリダ大学の医学部教授、
ロバート・ケード博士の目にとまります。
博士は、
コレラ患者と、
フットボール選手に共通する問題
「急速な水分補給の必要性」
への答えを見つけ、
思考を繰り返して、
ゲータレードを完成させました。
世界ナンバーワンの飲料は、
一般的な「先進国から途上国へ」の
イノベーションの流れとは逆の、
川下から川上へ向かう
「リバース・イノベーション」の
先駆事例となったのです。
本書では、
この他にもたくさんのおもしろいエピソードが紹介されています。
もちろん、
『戦略の教室』ですから、
30の突出した戦略をわかりやすく解説してくれています。
ビジネスの世界に生きる人なら、
ぜひとも読んでおきたい一冊です。
(高橋フミアキ)