『天上紅蓮』(渡辺淳一)
2014年4月30日に渡辺淳一さんは亡くなります。
その3年前に発表されたのがこの小説です。
『天上紅蓮』は文藝春秋読者賞を受賞しました。
渡辺淳一の最後の小説となったのです。
物語の舞台は平安時代。
63歳の白河法皇と璋子15歳、
50歳もかけ離れた男女の恋愛を描いた小説です。
白河法皇は肉体が衰えていくのを感じはじめると、
自分がいなくなったあとの璋子の行く末を案じるようになります。
荘園や財宝を分け与えて、
璋子を経済的に支えるのです。
それでも不安は募ります。
そこで妙案を思いつきます。
法皇の孫である鳥羽天皇の后にしてしまうのです。
さらに、
后になって最初に生んだ子どもは、
白河法皇の血を受け継いでいます。
つまり、いまでいうなら、
不倫。
璋子は天皇である夫の鳥羽天皇と
白河法皇と2人の男性から愛されるわけです。
そして璋子はその愛を受け入れます。
60代の法皇のやさしい愛撫やふくらみのある抱擁を味わいつつ、
若くてあまり経験のない鳥羽天皇のがつがつした欲望も愛でる余裕があったのです。
「男は複数の女性と関係しても、
愉しみ方はそう変わりません。
それに対して、
女性は本来、
同時に複数の男性との多様な関係を
愉しめる余裕と大らかさを持っています」
と作者は語ります。
作者はインタビューでこう答えています。
「一途であることが女々しいと言われるんじゃないかと思って、
身を引くような今の男性には、是非、
白河法皇の老いてからの璋子の愛し方を学んでほしいですね。
法皇は物語の終盤で性的に不能になりますが、
そうなったらなったで、
女性を満足させる多様な愛し方に挑む。
挿入ばかりがセックスじゃないから。
『天上紅蓮』には、
法皇がいかに懸命になって璋子に、
愛の記憶を残す努力をしたか、
そのすべてを書きました」
国内から優秀な職人を集め、
蛍を入れる籠を作らせます。
何度も作り直しさせて、
蛍の光が周囲を照らすような薄い竹で作らせるわけです。
そして、
完成した籠に大量の蛍を入れ、
璋子の陰部を蛍の光で照らすというシーンは圧巻です。
渡辺作品にみる見事な性描写は、
この小説にも余すことなく発揮されています。
(高橋フミアキ)