ハーバード流交渉術

『ハーバード流交渉術』(フィッシャー&ユーリー)


2人が互いの主張を強固に言い張って一歩も引かない場合、

どうやって妥協点を見つけていけばいいのでしょうか?


力づくで相手をやり込めるのは暴力です。

国家間の交渉だと戦争に発展します。


交渉術というのは、

それほど危険で重要なものです。


本書を読んでまず思ったのは、

「もっと早くに読んでおけばよかった!」

です。


この交渉術は国家間、企業間のことだけでなく、

夫婦間、親子間、友人間など、

あらゆる局面で応用できます。


同じ考え方をもった人はどこにもいません。


一緒に暮らしていても理解できなことはたくさんあります。


意見が対立したら喧嘩になり、

いがみ合い、

心が離れていくのです。


そんな苦い経験は誰もがしているはず。


一刻も早くその泥沼から抜け出したいと思う人は、

一刻も早く

本書を手にした方がいいです。



目次を見るだけでも、

どんな交渉術が紹介されているかがわかります。


本書に紹介されている交渉のテクニックは、

随所に驚きと新しい発見がありました。


「なるほど、そうすればよかったんだ!」

と、あなたも膝を何度も叩くはずです。


1、「駆け引き型交渉」のさらに上をいくこの方法

・自分の立場に固執すると合意は遠のく

・時間と労力をかける交渉はプロではない

・相手のなかに敵意を芽生えさせるな!

・当事者の数が多いとよけいにこじれる

・こんなやり方では身ぐるみ剥ぎとられる


2、問題解決の「糸口」はここにある!

・交渉決裂を回避するために

・自分の言い分に専念するから失敗する

・譲歩をして解決策を図るのは愚の骨頂である!

・客観的事実に頼らず、相手の「頭のなか」を重視せよ

・相手の感情問題を解消させる5つの決め手

・意志疎通を完璧にする4つの方法

・交渉前に打つべき先手


3、立場にとらわれるな! 常に「利害」に焦点を合わせよ

・なぜ二者択一だけを考えるのか? 第三の道を見出すために

・常に「複数の利害」を読み、ここを優先させよ!

・利害に焦点を合わせるこのやり方


4、双方を満足させる解決策がここにある

・まずこの障害を取り除け!

・解決の扉は別のところにある

・交渉のテーブルに必要なものは何か?

・一面だけにこだわるな

・立案と決定を分離せよ

・「これしかない!」といえる解決策にどう到達するか

・相手にも十分満足を与えるもう一つの方法

・相手の気をそそるくらいの視野と器を持て


5、こちらの要求を100%納得させるこの方法

・自分の主張に固執すると結局は高くつく

・客観的基準を打ち出すだけでスムーズに合意できる

・「1人がケーキを切って、もう1人が選ぶ」方式をとれ!

・相手の面子つぶさないとっておきの方法

・これだけ差がつく頭のいい交渉術


6、相手の方が強かったらどうするか?

・立場の強い相手だからこそできる、この方法

・弱い立場を逆転させる”切り札”の使い方

・実力闘争を避けよ! 自分の土壌に相手を引き出せ


7、相手が話に乗ってこなかったらどうする?

・相手が強硬に主張したとき、論点をこうして展化させよ

・第三者の「最終案調停」―1人が動くだけで局面が変わる

・相手を自分側に引き込む話し方


8、相手が汚い手口を使ってきたらどうするか?

・相手の手口を読み交渉のやり方を変えよ!

・こんな計略的戦術にはどう対処すべきか

・不当な戦術、あらゆる高等戦術に勝ることの方法


コミュニケーションではよく誤解されることがあります。

誤解されてしまうと交渉どころではありません。


誤解されてしまった政治家の事例として、

本書におもしろいエピソードが紹介されています。


1980年のはじめ、

国連のワルトハイム事務総長が人質問題の解決のために

イランに飛んだときのことです。


ワルトハイム事務総長は、

英語とペルシャ語の言葉の違いを十分理解していませんでした。



英語のCompromise

「妥協」という言葉は、

両者が合意できる中間的な解決という

ポジティブな意味合があります。


しかし、

それに相当するペルシャ語には、

ポジティブな意味合いは含まれていません。

「妥協する」とは、

「人の貞節や信用を危うくするような行為」

という意味なのです。

つまり、

相手を非難するときに使う言葉だったのです。


さらに、

英語のMediatorは「調停者」という意味です。


これをペルシャ語に訳すと

「頼まれもしないのに強引に入ってきて、

他人事に口を出す者」となります。


そんなことも露知らず、

ワルトハイム事務総長はテヘランの空港に降りてイラン国営放送のカメラの前で、

こう言ったのです。


「私は本件についてCompromiseを達成すべく、

Mediatorとしてやってきました」


イラン国営放送はそのままペルシャ語に直訳して放送しました。


ですから、

この放送後、1時間もしないうちに、

ワルトハイム事務総長の乗った車は、

憤激したイラン人たちから投石を受けて立ち往生することになるのです。


よかれと思ってやったことが、

誤解されることってありますよね。


怖いことです。


(高橋フミアキ)