この本を読みんさい/不祥事


『不祥事』

(池井戸潤)

 

東京第一銀行の入行5年目の

若手のホープ、「花咲舞」が活躍する

銀行を舞台にした八編を集めた短編集である。

 

「激戦区」「過払い」

 

契約者以外に定期預金を払い戻してしまった誤払いと、

契約者にお金を余分に渡してしまった過払い。

前者を扱ったのが「激戦区」、

後者を扱ったのが「過払い」である。

いずれもミスをするはずのないベテラン行員が重大なミスをする。

果たしてその原因とは。

舞が解き明かす。

 

「三番窓口」「荒磯の子」

銀行を狙う犯罪は後を絶たず、

手口も様々である。

巧妙な犯罪手口を果たして見破れるか。

舞の冴え渡る人間観察で悪党に立ち向かう、

痛快な2編。

 

「腐魚」「不祥事」

銀行の得意先の伊丹百貨店の社長が修行のためと称して

息子を得意先である銀行に勤めさせる。

そのいびつな関係から生じた問題を扱った2編。

 

「主任検査官」

舞が金融庁検査官と対峙する一遍。

歯切れのよい舞の勇姿は「おれたちバブル入行組」の主人公、

半沢直樹を髣髴とさせる作品である。

 

「彼岸花」

出世頭の企画部部長の真藤のところに彼岸花が送られてきた。

送り主は退職した元行員であった。

組織に翻弄される人間を淡々とした筆遣いで描く。

 

正義感にあふれ、

間違っていることや不条理に対しては徹底的に立ち向かう舞。

時として相手が上司であろうが金融庁の検査官であろうが

キレてしまうため、

直属の上司である相馬からは

「花咲」をもじって「狂咲」と揶揄される。

 

誰もが目を瞑りたくなる様な、

悪しき慣習や不祥事。

見てみぬ振りをしてやり過ごしたい、

矢面に立ちたくないのが普通であるが、

花咲舞は黙っていない。

 

「そんなんじゃ、銀行はよくならないわ。」

 

体質だとあきらめずに、

銀行を変えようとする舞の姿は、

読者の気持ちを前向きにしてくれる。

 

明日は自分も会社で何かできるのではないか、

そんな勇気がもらえる作品である。

 

 

(ライター/林なつこ)