マギー
dainosuque
人工島へ繋がる最寄駅が見える。
電車が着く度、僕はドキドキしていた。
僕は一人、海辺のベンチに腰かけアコースティックギターを弾いていた。
気持ちを紛らすためだ。
ギターを弾いていると自分のゾーンに入ることがある。
周りが見えなくなりギターの音色に僕の身体が共鳴しているかのようだった。
彼女をLINEで呼び出した。
OKのスタンプが着たので、きっと彼女は来るだろう。
今日、告白しようと思っている。
だけど、その気持ちを邪魔しようとしているもうひとつの感情があるのも確かだ。
「ギター上手になったね」
僕は後ろからの声でビクっ! とした。
僕は慌ててハードケースにギターを入れてベンチに傾けバランスよく置いた。
「もう少し聴きたかったなァ~」
彼女は制服姿だった。
部活の帰りだと言った。
「ところで話って何?」
その言葉を聞いた途端、僕の心臓はバクバクと激しく打ち出した。
「えっとーそのー……つまり……」
さぁ男だったらここで言うんだというとき、急に僕のポケットに入っていたスマートフォンが鳴り出した。
母からだった。
僕は電話に出た。
「えっ!!」
母の言葉を疑った。
僕は泣いた。
人目も気にせずに泣いた。
「どうしたの?」
彼女が訊ねる。
僕は涙を拭いながら、
「叔父さんが死んだ……」
と、言った。
叔父はガンで余命3ヶ月と言われていたが、急変した。
父のいない僕に叔父は様々なことを教えてくれた。
ギターも叔父に教わった。
エリートコースを歩んでた叔父はそのレールを自ら外れ、年収100万円のフリーター、一ヶ月間のサバイバル生活も経験した。
そんな叔父のリアルな話しは僕に刺激を与え続けた。
叔父はその後、輸出関係の会社を立ち上げ、規模をどんどん拡大していっていた。
その矢先の出来事だった。
僕はギターを取り出し、チューニングして、
「ねぇ叔父さんのために歌っていいかな? 叔父さんが僕に始めて教えてくれた曲なんだ。曲名は『マギー』って30年以上前の曲さ」
と彼女に訊いた。
彼女は黙って頷いた。
僕はDコードを押さえた。
叔父が最初に教えてくれたコードだった。
横長に三本の指が三角になる形が好きだった。
続けてA、Gとコードを奏でる。
僕は歌いだした。
マギーという曲の歌詞は愛する女性に自分の生き様を伝える内容だった。
僕はその歌詞に叔父の生き様を重ね合わせるように気持ちを込めて歌った。
聴いている彼女が涙を流している。
僕の歌で誰かが泣いてくれるなんて思ってもみなかった。
僕が歌い終わると彼女は、
「あなたにとって叔父さんはとても大切な人だったのね。大切な人のために泣けるあなたのこと、私は好きよ」
と、照れながら言った。
僕が告白しようとしたのに彼女に告白されてしまった。
空を見上げると深い青空に、もくもくと勢力を伸ばそうとしている入道雲。
……叔父がウィンクしているように見えた。
(了)
リンカ (木曜日, 17 9月 2015 17:40)
今回のお題目の「年収100万円フリーター」がうまく盛り込まれてて、さすがです。
ギターの音色が聞こえてきそうな、素敵
なお話でした。
鈴木康之 (水曜日, 16 9月 2015 22:02)
なんとなく、あまりにも淡々としすぎて、心に引っかかるものがないのは
なんでだろう・・・
桑山元 (水曜日, 16 9月 2015 21:09)
「A」
ラストの彼女の台詞にグッときました。
叔父さんへの思いが丁寧に描かれているので、彼女の台詞がよりリアルでハートウォーミングに仕上がっているのだなぁと思いました。
とっても好きな話です
うさみん (水曜日, 16 9月 2015 10:36)
読みやすい文章でした。叔父さんと主人公のエピソードがもう少しあってもいいかなぁと個人的に思いました。評価:B