『ブラック企業/経営者の本音』(秋山謙一郎/扶桑社)
ブラック企業の経営者の思考はどうなっているのか、
どんな考え方から、
ブラックになるのか、
この本を読んで、
その謎が解けました。
ブラック企業大賞に選ばれたことのある
ワタミフードサービス株式会社の
渡邊美樹社長は、
「無理というのですね、
嘘吐きの言葉なんですよ」
とテレビのインタビューで、
村上龍の前で言ってしまいました。
「死ぬ気でやれ!」
「お前みたいなクズは、
その窓から飛び降りろ!」
などと社員に暴言を吐いて追い詰めていったという話もありますよね。
しかし、
実際に、私は、居酒屋が大好きで、
ワタミもよく使いますが、
安くておいしくて、
スタッフの接客も悪くないですよね。
消費者に低価格で喜んでもらうためには、
社員たちの血のにじむような努力があるということでしょうか。
もうひとつの経営者の声。
「ユニクロ」「GU」を展開するファーストリテイリングの柳井社長の言葉です。
「変革しろ!
さもなくば死だ!」
この言葉が世間に広く出回り、
ブラック企業のレッテルが貼られてしまいました。
「今の若い人は豊になったからか、
他人に学ぶ心がないし、
物事を多面的に見る力が欠けているように思います。
モノの見方が教科書的だし、
常識的なところも気になります。
若い人には、
もっと日本の先人たちに学んでほしいと思います」
熱心な接客を施すことで売り上げをあげようとする、
必死の姿勢がこの会社の特徴ですが、
それゆえ、社員への要求も高くなっていくのです。
人口減少に少子高齢化、
国の借金も増える一方で、
消費税もアップし、
ますます国内消費は落ち込んでいます。
倒産する企業も、
年々増え続けています。
いまや成長どころか、
生き残れるかどうかというところです。
弱肉強食、
喰うか喰われるか、
そんなときに、
ゆとりの国の王子様や王女様など、
使い物にならないわけです。
鍛えなおして、
根性を入れ替えさせる必要があると
考える経営者が出てきても不思議ではありません。
要は、
右向け右!
で、スッと右に向く、
軍隊みたいな組織を作りたいと経営者たちは思っているわけです。
ブラック企業の新入社員研修の様子を読むと、
まるで自衛隊の新入隊教育とそっくりです。
入隊式の前は、まだお客様扱い。
入隊式では、お客さんから兵隊へと落とす、
通過儀礼があります。
入隊式後は兵隊としてヤキをいれるわけです。
ブラック企業は、
この自衛隊方式で、
社員を社畜化していきます。
しかし、
ブラック企業がなぜ社員に長時間労働をさせるのか、
ずっと疑問が残ります。
効率はすこぶる悪いだろうし、
社員の精神的なダメージも半端ないはず。
残業代を支払わない手口も、
本書に書いてありますが、
なぜそんなことまでして、
長時間労働させるのか、
ずっと疑問に思っていました。
あるIT企業の経営者の次の言葉で、
その答えがわかりました。
「仕事量が多いから長時間拘束させているという面もあるけど、
1番の目的は世間との隔絶にある。
資格取得の勉強をしたり、
転職活動に精を出させない環境に、
どっぷり染めることで、
出口をふさいでしまうってわけ。
忙しい、辞めたい、ってなっても、
転職活動すらままならなければ、
辞められないでしょ。
常識的にはおかしいことでも、
染まってしまえば、
たいていのことは受け入れられるようになる。
要するに、
長時間拘束は余計なことを考えさせないためのもの」
恐ろしいですねぇ。
こんな考え方があるんですね。
ビックリしました!
著者は、
ブラック企業は今後も増え続けるだろうと予測しています。
経営者自身は「社員は家族だ」などとカッコいいことを言っていますが、
本音の部分は、
「せめて自分だけは生き残る」と考えているのです。
まさに、
エゴのかたまり!
しかし、
そうでもしなければ生き残れない時代なのかもしれません。
となると、
私たちは、どうすればいいのでしょうか?
今、
「仮面社畜」
という言葉が新たに出てきました。
企業に絶対服従しつつも、
自分自身を見失わない。
どんなに理不尽なことがあっても、
こうした場なんだと割り切って、
たくましく生きていく、
そういう人たちのことです。
ブラック企業側も、
社員を使い捨ての兵隊だと考えているのですから、
こっち側も、
ブラック企業を使い捨てにしていくぐらいの、
したたかさを持つと、
案外、ブラックを楽しめるかもしれません。
(高橋フミアキ)