『ブラック企業』(今野晴貴)
著者は学生時代にNPO法人POSSE(ポッセ)を立ち上げ、
長年若者たちの労働相談を受けてきた人です。
ブラック企業問題は、
日本社会にさまざまな弊害を生み出しています。
・ブラック企業は消費者の安全を脅かします。
・日本経済の雇用システムを破壊してしまいます。
・若者の間でうつ病が蔓延します。
・国の医療費負担が増大します。
・少子化が進み市場縮小や長期的な財政破たんの要因となります。
著者は、
ブラック企業を単に1企業や労働者の問題だけでなく、
国全体の問題だととらえています。
本書には生々しい実例が盛りだくさん。
ブラック企業の実態が明らかになっています。
誰だってこんな企業に勤めていたらおかしくなるだろうと思わせる迫力があるのです。
IT企業Y社の事例。
Y社は1000人近い社員を擁する都内のITコンサルタント会社。
ITコンサルタントといっても、
顧客に従業員を派遣してIT関連の下請け業務を行う派遣業が、
事業の大部分を占めています。
Aさんは08年に新卒で入社、1年後には上司から退職強要を受けました。
「面談」「カウンセリング」と称して、
毎日数時間の圧迫が行われます。
Aさんは、これを「自分を育てるためのもの」と好意的にとらえていて、
第三者から見ても異様な精神状態だったとのことです。
Y社には、他にも著者のもとに相談に来る人が7名いました。
Bさんは派遣先の企業から「コミュニケーション能力の不足」を理由に解約されてしまいます。
その後も派遣先が見つからず、
Bさんは退職強要を受けていたのです。
派遣先が見つからない状態をY社では「アベイラブル(未稼働)」と呼び、
アベイラブル状態の従業員を「コスト」と認識していました。
Bさんは毎日カウンセリングルームに呼び出され、
2時間以上拘束されて叱責を受けます。
「お前は信用されていない」
「仕事は無理だ」
「人間として根本的におかしいから感謝の気持ちを考える必要がある」
「コンプレックス、自分史を書いて来い。生まれてから何をしてきたのか考えろ」
「価値観を変えないとだめになる」
「リボーン(生まれ変わり)させたい」
こんな言葉を上司から浴びせかけられます。
Bさんは徹底的に「自分はダメなもの」という意識を持つようになったということです。
Cさんは、
営業部内の社長アシスタントというポストにつきました。
要するに社長の雑用係です。
2週間後
「仕事が遅いのは見た目を気にしているからであり、
コンサルタントで採用されたことを引きずっている」との理由で、
グレー無地のスウェットでの通勤・勤務を命じられます。
就業時間外であっても、
呼ばれればすぐに社長や副社長のもとに向かい、
雑用をこなされなければいけません。
具体的には社長の出迎え、カバン持ち、副社長のペットの散歩など。
残業時間は1日平均5時間に及びます。
Cさんは懸命に働きますが、
社長や営業社員による叱責はやむことはありませんでした。
「気が使えない。おもしろくない」
なぜおもしろくないのかを数時間にわたって問い詰められます。
Cさんは痩せていき、
顔色も悪くなっていきます。
結局、配属3ヶ月で自己都合により退職しました。
本書には、
実名でブラックぶりを紹介されている企業もあります。
1)株式会社ウェザーニュース
2)株式会社大庄
3)ワタミ株式会社
4)SHOP99
日本は資源の乏しい国です。
その国が技術大国として80年代には世界を席巻しました。
日本が持つ唯一の資源はヒトです。
しかし、
いま、
その大切なヒトが食いつぶされて枯渇しかけているのです。
ブラック企業問題はほうおっておいたら、
とんでもないことになるような気がします。
(高橋フミアキ)