かつどん協議会

『かつどん協議会』(原宏一)


ユーモア小説というのは、

どうも地位が低いようです。


ホラー小説よりも、

SF小説よりも、

世間では

下に見られているように思うのは私だけでしょうか?


しかし、

ユーモアほど人間を勇気づけ元気づけるものはありません。


ユーモア小説にもっと高い地位を与えてもいいのではないでしょうか。


本書はまぎれもなくユーモア小説です。

最初から最後までバカバカしくて、

笑い転げさせてくれます。


とにかくバカバカしいのです。



著者はこの小説が出版社の目にとまり作家デビューします。


のちに


『床下仙人』という小説が大ブレイクし、

ベストセラー作家へと階段を昇って行った人です。



本書は、

かつどんが大好きな主人公の僕が、

ひょんなことから、

かつどん協議会に出席することになるというお話です。


かつどんのキャンペーンについて、

農業連合や養豚協同組合、

鶏卵連盟、醤油業界などの名札をつけた人たちが、


顔を合わせて議論するんです。



かつどんの肉厚に対して、

養豚協同組合の代表が熱弁をふるいます。


そこに主人公がポロリと自説を披露するのです。


「肉が厚すぎるのはちょっと考えものですね、かつどんは肉じゃないですから」


すると養豚協同組合の代表が


「かつどんは肉じゃない?

それはどういう根拠でおっしゃられるのかな」


と返してきます。


そこで主人公が自分の考えを話しはじめます。



かつ丼の肉は中途半端でなければならないのだ。

ロース肉のようでばら肉のようで、

赤身のようで脂身のようで、

厚いようで薄いようで、

柔らかいようで固いような、

そんな、

なんだかよくわからない中途半端な肉をからりと揚げてこそ、

かつ丼なのだ。


そのこころはといえば、

かつ丼とは、

かつを味わう料理ではないからだ。


かつ丼とは、かつと玉葱と、甘辛いつゆと卵とごはんの

バランスを味わう料理だ。


そこでのかつは、いわゆるとんかつとしての役割と同時に、

ほかの素材に肉のエキスを提供するダシとしての役割も担っている。

かつは、かつとしてだけ機能するわけではないのだ。


ここにかつ丼の肉のむずかしさがある。


基本的に高級肉からはあまりダシがでない。

魚でいえばアラみたいな雑多の部分のほうが、

よいダシがとれる。


といって逆に、

ダシの役割だけを尊重して肉を選ぶと、

こんどはとんかつとしての役割が損なわれてしまう。


したがってかつ丼の肉は、

肉であって肉じゃない、

中途半端な存在であることが大切なのだ。


おれが主役だとばかりにしゃしゃりでられても困るし、

どうせ万年脇役なんだといじけられても困る。


みずからの出所進退をわきまえた大人としての存在感。


それがあってこそかつ丼の肉として認められるのであって、

それはけっして肉の厚みなどで語られるべきではない。



協議会を終えて帰ろうする主人公を、

鶏卵連盟の代表が呼び止めて、

飲み会に誘います。


そこでは、


「よくぞ言ってくれた」


と褒められるのです。


これまで協議会では、


養豚協同組合の代表がデカイ顔をして、

周囲の人たちはいつも手を焼いていたのですから。


そんな力関係も見えてきて、

かつどん協議会は

何回も開かれ、

結論を出す日が迫って来ます。



事態は悪化するいっぽうです。

罵詈雑言が飛び交い、

怒号と喧噪の協議会となっていきます。


収拾がつかなくなった協議会は、

結局どうなっていくのでしょうか?



最後は、思わぬ展開に・・・・


これは本書をぜひ読んでいただき、

たしかめてみてください。


読み終わったあと、

あなたはきっとかつ丼を食べたくなっていることでしょう!


かつ丼を愛するあなたへ贈る一書です。


(高橋フミアキ)