小説『喘ぎ声』
だいのすけ
「あ、あ〜ん」僕は耳を疑った。
午前五時、こんな時間から外からAV女優の出すような喘ぎ声が聞こえる。
外に出てみる。
人っ子ひとりいない。
道路の真ん中、真っ黒なカラスが一羽バサバサ両羽を焼き鳥を焼く時の団扇のように動かしている。
「あ〜ん」
また聞こえる。
キョロキョロ見てみる。
女性はもちろん人は見当たらない。
僕は諦めて部屋に戻ろうとする。
すると
「あ、あ、あ、あ〜ん」
真後ろから聞こえる。
振り返る。
カラスが勢いよく飛び、電線に止まった。
少し間を置き、一直線に飛び去る。
だんだんカラスが小さくなっていく。
それに伴い
「あ、あ〜ん」
という喘ぎ声もフェードアウトするように小さくなっていく。
「フッ」
声の主のわかった僕は鼻で笑う。
そして部屋へ戻る。
(了)