創作落語『竜馬の恋』


創作落語『竜馬の恋』


 慶応2年(1866年)1月23日、この日、竜馬をとんでもない事件が襲います。のちに、竜馬がお龍をめとることに決めた事件でもあるんです。 

 

薩長同盟を成立させた竜馬は意気洋々と京都伏見の寺田屋に戻ってまいります。

 

「坂本さま、お帰りなさいまし」

「ああ、お登勢さん、酒の支度をしてくれ」

「二階で三吉さまがお待ちです」

「そうか」 

ってんで長州の三吉慎蔵と竜馬は酒を飲み始めます。

 

「いやあ。めでたい。これで長州は救われますら」

「ま、一杯」

「ん? 坂本どの、このお酒には炭酸が入っているようですなあ」

「ソーダ。竜馬です」

 

「京野菜の煮つけにおつけもの、う~ん、おいしい。ん? 坂本どの、この料理には、なにやら書いてありますぞ。ローリングストーンズ? 何ですかこれは」

「ニックジャガー。竜馬です」

 

「肉じゃがね。おいしい、おしい。ん? 坂本どの、このキャベツ虫がついておりますぞ」

「キャー、別のにして~~! 竜馬です」

 

「坂本どのはおモテになる。江戸には千葉道場のさなこどの、長崎には芸者のお元どの、そしてこの京都にはお龍さん。寺田屋のおかみのお登勢さんも、坂本どのに好意を持っておる。うらやましいかぎりですなあ」

「いやいや、ま、一杯」

「かたじけない。おや、この酒はお薬の匂いがしますなあ」

「おお、養命酒じゃ。三吉どのは槍の名手だと聞いたんでな」「は?」

「養命酒で酔う名手! 竜馬です!」

 

「ところで、坂本どのは誰を好きなんですか。そろそろ夫婦になる人を決めてあげなければ、女性たちも可愛そうですぞ」

「わしは結婚なぞせん」

「愛の反対は憎しみではなく、無関心である。マザーテレサ。愛してもらいたかったら、人を愛しなさい。トルストイ。人に心があるのは人を愛するためである。麹家竜馬」

「三吉くん。わけわかんないんだけど」

「つまり、坂本どのの心に愛はあるのかってことですら」

「愛か、お使い好きな大塚愛好き。iPodに大塚愛没頭。大塚愛がいるのは大津かい? 竜馬です」

 

 ま、竜馬たちが、そんな呑気なことを言っている間。幕府では、

「土佐藩の坂本竜馬がしきりに京大阪に出没している、何かある」

「やつは北辰一刀流の使い手」

「ん? 一ツ橋慶喜公が京に入っておられるときじゃ、もしや、暗殺計画やもしれん。すぐにそ奴をひっ捕らえよ」

「は」

「坂本はいまどこにおる」

「伏見の寺田屋にござります」

「そうか、ならばさっそく、奉行所に人を集めるのじゃ」

「は、かしこまりました」 

奉行所はてんやわんやです。

 

「棒を持て、梯子を持て、さす股を持て、あ、お前は、何をやっておるのだ」

「武器を持っております」

「隣におるのは誰じゃ」

「高倉健さんです。不器用ですから」

「お前に用はないわ」 

ま、こうして物騒な武装集団ができます。

「お奉行さま、大変です」

「どうした」

「年賀はがきが」

「ん? 年賀はがき?」

「お年寄りつきでした!」

「竜馬です!」

 

 一方、寺田屋では

「お龍さん、ここはもう片付いたから、先にお湯に入ってきなさいな」

「お母さん。私はあとでいいです」

「あなたが竜馬さんの妻になったら、さぞ悪妻になるでしょうね」

「え? どうしてです?」

「お風呂にも入らないで、あ、臭い!」

「まあ、お母さんったら。わかりました。じゃあ、先にお湯いただきます」 

 

2階では、竜馬と三吉慎蔵は呑気に酒を飲んでおります。

「ぐびっ。月桂冠飲んだら、ゲ、警官だ!」

「竜馬さん、おもしろい、おもしろ。いいね、押しちゃう。ポチっ」

「千の利休が作った、1,000本のリキュール」

「う~~ん、いまのはイマイチかな」

「嫁、姑、養命酒のめ!」

「竜馬さん、さえてますね」

「まっこり飲んでもっこり。ハッハッハッハ。なめたらいくぜよ~~ 竜馬です!」

 

「(ぱしゃ~~)ああ、いい湯。竜馬さんのお仕事がうまくいってよかった」 

お龍はお風呂に入っております。

「郷ひろみが水に飛び込んだ。ジャパーン! 白身魚が好きな郷しろみです」 

ま、お龍が、そんなひとりごとを言っているときに、風呂場の湯気がさあっと外へ流れて行く。外の気配に気づくお龍。湯気に誘われて外を覗いてみると、そこには無数の御用提灯。御用、御用、御用。御用提灯が寺田屋を取り囲んでおります。

 

「は、これは!」 

竜馬をとらえにやってきた役人たちだと察したお龍は(パン!)、湯船からがばあっと立ち上がると(パパンパン)、そのままのかっこうで、ダダダダーーと廊下を走り(パン、パン、パン)、トントントンと階段を上って行きます。そして、部屋の障子をバッと開ける。

「竜馬さま、追っ手が(パン)、追っ手が囲んでいます」

「お龍、どうした」

「竜馬さま。早く、早く、逃げてください」

「まあまあ、お龍、とにかく何か着ろ」 

 

剣の試合ですと、この一瞬の間を得るかどうかで勝負が決まります。お龍のおかげで、竜馬は心の準備もできましたし、もともと腕に覚えのある男ですから、幕府方の役人が何人やって来ようと、顔をバチ~~ンと張り倒し、エイ、ヤ~~、トォ~~と足払いをし、決して剣は抜かず、相手をバッタ、バッタと倒していきます。三吉慎蔵は槍の名手、10人、20人かかってきても負けない。エイ、ホォ、サア~~と見事な槍さばき。 

 

しかし、いくらがんばってもこちらは2人、追っ手は次から次へとやってくる。そこへ、 

 

ドキュ~~ン! 

 

一発の銃声が鳴り響きます。高杉晋作からもらった拳銃を竜馬が一発ぶっぱなしますと、

「さあ、三吉どの、いまのうちに」

「心得た」 

2人は屋根づたいに逃げていきます。 

 

お龍はすぐさま寺田屋を飛び出し、走りに走り、薩摩藩邸に助けを求めます。

ドンドン

「お願いします」

ドンドン

「お願いします」 

お龍のこの判断は的確かつ正しかった。

「坂本さまをお助けください」

「あいわかった」 

と事情を聞いた留守居役はすぐさま西郷のもとに使い走らせる。「坂本はんは、わが藩の愛人でごわす、いや恩人でごわす。何としてもお助け申す」

「よろしくお願いいたします」

「お龍はん、もう心配なか、おいどんにまかせてつかあさい」

こうして、西郷の指揮のもと、竜馬は無事救出されたのです。

 

「坂本はん、傷の具合はいかがでごわすか?」

「なあ~にかすり傷さ」

「ま、名誉の負傷でごわすな」

「対人恐怖症のタイ人、今日負傷。竜馬です」

 

「ところで坂本さあ。京にいては物騒でごわす。薩摩に行きなさらんか?」

「薩摩にのう」

「傷を癒す温泉もありますぞ」

「ん? そうだ! おなごを連れて行こう」

「そうだ! 京都へ行こう、じゃないんだから。ま、いいですとも、いいですとも。温泉旅行に行けばよかです」

 

「アメ~リカでは、結婚した男女が旅行へ行く習わしがあるそうです」

「ほう」

「ハネムーンといいます」

「ハネムーン? というと、坂本はん、誰かと結婚するでごわすか?」

「わた~~しは、お龍さんと結婚しま~~す」

「おお、それは、それはけっこんなことでごわすな」

 

「お龍、どうじゃ。わしとハネムーンへ行かんか?」

「ええ、よろこんでおともいたします」

「でも、今度はちゃんと服を着て来るのじゃぞ」

「はい。大丈夫です。私のもとにも福が来ましたゆえ」

 

(了)