この本を読みんさい/100回泣くこと


『100回泣くこと』

(中村航)

 
 上辺だけの幸せ、上辺だけの愛、

そんなものは突如として崩れてしまうものです。

まるで砂の上に築いたビルのようなもので、

立派そうにみえて、実は中身のない建物になっています。

この小説を読んだあと、そんな感想にとらわれました。

 

 主人公の僕は彼女にさらりとプロポーズして、すんなりと了承を得ます。とんとん拍子にことはすすみ、同棲がはじまりました。

危篤状態だった実家の愛犬も復活し、良いことが続きます。
 

 ところが、彼女が風邪をひいてしまったところから

お話が一転するのです。

卵巣がんの疑いがあるので精密検査が必要だというのです。

病理診断の結果、卵巣明細胞腺がんでリンパ節への転移も確認されました。

余命は長くて3か月と宣告されます。
 手術が終わり、投薬治療に移るもの効果はみられません。
 プロポーズをした記念日に何かプレゼントすると僕が言うと彼女は、
「絶対に開かない箱を作って欲しいの」
 と答えます。


 そのときは、何気なく「わかった作るよ」と僕は言うのです。

しかし、僕は開かない箱を作るヒマもなく月日が流れます。
 彼女の体には副作用がだんだん強くあらわれるようになります。

食欲がわかず、食べようとすると吐いてしまうし、

背中や足も痛むようです。

3クール目の投薬がはじまるころには彼女の髪の毛が抜けるようになりました。


 2月の雪が降る日でした。彼女は「元気になりたい」とやっと聞こえるような小さな声で、コマ送りのような一筋の涙を流して静かに死んでいきました。
 彼女が死んでちょうど百日目、僕は「絶対に開かない箱」を作ります。工場で溶接してもらった箱を前にして焼酎をあおります。
僕は彼女がなくなったときのことを思い出します。

彼女が「元気になりたい」と言って泣いたとき僕は「大丈夫」と言っただけでした。

「何が大丈夫なんだろう」「大丈夫じゃないから彼女は泣いたのに」「一体何が大丈夫なんだ」「あのとき彼女と一緒に死ぬつもりになって一緒に泣けばよかった」

と後悔の念が僕の胸に去来します。


紙パックの焼酎がなくなるまで僕は飲み、涙を流します。
ひとつの愛を失ったとき、真実の愛に気づくものです。

「死」という完璧なる別離のなかで、主人公の僕は真実の愛に目覚めていきます。

(文・浅加怜香)